何が起きたか

「AIがビデオ通話で問診する」研究の結果を、Googleが8月11日に公開しました。

使われたのは研究用の医療AI「AMIE」。これまでは文字のやりとりで診断の会話をするものでしたが、今回はそこにビデオ通話が乗りました。相手の様子を見ながら話を聞き、「その部分を見せてください」と体を動かしてもらい、その場で見立てを立てるところまでやります。土台はGeminiとProject Astraです。

中身は、1つのシステムの中を3つの役割に分けたつくりでした。

  1. 話す係 — 間を空けずに応答して、会話のテンポを保つ
  2. 考える係 — 裏で走り続け、見立てと「次に聞くべきこと」を更新する
  3. 見て聞く係 — 表情や動き、息づかいなど、言葉になっていない手がかりを映像と音の両方から拾う

深く考えると返事が遅れ、沈黙が相手の不安につながる。だから考える係を裏に回した、という説明です。医療に限らず、音声で話しかけるAI全般に効きそうな設計だと思いました。

比べ方も書いておきます。Google Researchの解説によると、比べたのは3通り。①AMIEのビデオ版 ②文字だけのAMIE(比較の土台として) ③本物の医師10人(①と同じビデオ画面で面談)。この3通りがそれぞれ模擬患者と面談し、それを、面談には関わっていない別の医師20人が採点する形でした(医師は合わせて30人)。全体で100の症例シナリオ・のべ300回の面談です。

結果、AMIEのビデオ版は、話の聞き取り・診断の正確さ・その後の対応・伝え方のどれでも、③の医師たちと同等の評価。特に「体の症状を引き出す」「診察の動きを誘導する」点では、医師よりも高く評価されたとあります。模擬患者役の人たちも、文字チャットよりビデオのほうがよいと答えました。

生活で何が変わるか

ここが大事なところなのですが、今日から誰かが使えるものではありません。研究段階のシステムで、Google自身が「責任をもって実際の医療現場に導入するには、さらに研究が必要」と書いています。

そして試した相手は、本物の患者さんではなく訓練を受けた模擬患者(役者)です。ここもGoogle自身が限界として挙げています。演じられる症状に限られるため、本来なら見た目や音での判断が効くはずの重要な病気が抜けていること。細かい取り違えや技術的な不安定さが残っていること。そして実際の患者で確かめることが、結論を出す前に必要な次の段階だということ。

つまり「AIが医者の代わりになった」というニュースではありません。そう読める見出しを見かけたら、元の発表の「限界」の項目まで見に行ったほうがいいと思います。

マスターの一言

子どもの具合が悪いとき、「病院に行くべきか、様子を見るか」で迷っている時間がいちばん落ち着かない、という感覚はあります。そこを助けてくれるものが将来出てくるなら、素直にありがたいです。

ただ今回は、その「将来」の話でした。医療は間違えたときの代償が大きい分野なので、この慎重さを保ったまま進んでほしいと思っています。

期待はする。でも今日の受診の判断は、これまで通り人間のお医者さんにします。

詳しくは原文(英語)をどうぞ。